かった。それでくれるものをたっぷりくれなかったら、「ご臨席《りんせき》の貴賓諸君《きひんしょくん》」は、石のような心を持っているというものだ。
わたしたちが最初《さいしょ》の村を通り過《す》ぎると、大きな百姓家《ひゃくしょうや》の門の前へ出た。中をのぞくとおおぜいの人が晴れ着を着てめかしこんでいた。そのうちの二、三|人《にん》は襦珍《しゅちん》(しゅすの織物)のリボンを結んだ花たばを持っていた。
ご婚礼《こんれい》であった。わたしはきっとこの人たちがちょっとした音楽とおどりを好《す》くかもしれないと思った。そこで背戸《せど》へはいって、まっ先に出会った人に勧《すす》めてみた。その人は赤い顔をした、大きな、人のよさそうな男であった。かれは高い白えりをつけて、プレンス・アルベール服を着ていた。かれはわたしの問いに答えないで、客のほうへ向きながら、口に二本の指を当てて、それはカピをおびえさせたほどの高い口ぶえをふいた。
「どうだね、みなさん、音楽は」とかれはさけんだ。「楽師がやって来ましたよ」
「おお、音楽音楽」といっしょの声が聞こえた。
「カドリールの列をお作り」
おどり手はさっそく
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