覚《おぼ》えた」
「だれかきみに音楽のことを話して聞かした人があるかい」
「いいえ、ぼくは耳に聞くとおりをひいている」
「ぼくが教えてあげよう、ぼくが」
「きみはなんでも知っているの。では……」
「そうさ、ぼくはなんでも知っているはずだ。座長《ざちょう》だもの」
わたしはマチアに、自分もやはり音楽家であることを見せようとした。わたしはハープをとり、かれを感動させようと思って、名高い小唄《こうた》を歌った。すると芸人《げいにん》どうしのするようにかれはわたしにおせじを言った。かれはりっぱな才能《さいのう》を持っていた。わたしたちはおたがいに尊敬《そんけい》し合った。わたしは背嚢《はいのう》のふたを閉《し》めると、マチアが代わってそれを肩《かた》にのせた。
わたしたちはいちばんはじめの村に着いて興行《こうぎょう》をしなければならなかった。これがルミ一座《いちざ》の初《はつ》おめみえのはずであった。
「ぼくにその歌を教えてください」とマチアが言った。「ぼくたちはいっしょに歌おう。もうじきにヴァイオリンで合わせることができるから。するとずいぶんいいよ」
確《たし》かにそれはいいにちがいな
前へ
次へ
全326ページ中105ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング