覚《おぼ》えた」
「だれかきみに音楽のことを話して聞かした人があるかい」
「いいえ、ぼくは耳に聞くとおりをひいている」
「ぼくが教えてあげよう、ぼくが」
「きみはなんでも知っているの。では……」
「そうさ、ぼくはなんでも知っているはずだ。座長《ざちょう》だもの」
 わたしはマチアに、自分もやはり音楽家であることを見せようとした。わたしはハープをとり、かれを感動させようと思って、名高い小唄《こうた》を歌った。すると芸人《げいにん》どうしのするようにかれはわたしにおせじを言った。かれはりっぱな才能《さいのう》を持っていた。わたしたちはおたがいに尊敬《そんけい》し合った。わたしは背嚢《はいのう》のふたを閉《し》めると、マチアが代わってそれを肩《かた》にのせた。
 わたしたちはいちばんはじめの村に着いて興行《こうぎょう》をしなければならなかった。これがルミ一座《いちざ》の初《はつ》おめみえのはずであった。
「ぼくにその歌を教えてください」とマチアが言った。「ぼくたちはいっしょに歌おう。もうじきにヴァイオリンで合わせることができるから。するとずいぶんいいよ」
 確《たし》かにそれはいいにちがいな
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