。わたしは先にかれを一人出してやって、かの女が一人きりでいるか見せにやる。それからわたしが近所に来ていることを話して、会いに行ってもだいじょうぶか、それのわかるまで待っている。それでバルブレンがうちにいれば、マチアからかの女にどこか安心な場所へ来るようにたのんで、そこで会うことができるのである。
 わたしはこのくわだてを考えながら、だまって歩いた。マチアもならんで歩いていた。かれもやはり深く考えこんでいるように思われた。
 ふと思いついて、わたしは自分の財産《ざいさん》をマチアに見せようと思った。カバンのふたを開けて、わしは草の上に財産を広げた。中には三|枚《まい》のもめんのシャツ、くつ下が三足、ハンケチが五枚、みんな品のいい物と、少し使ったくつが一足あった。
 マチアは驚嘆《きょうたん》していた。
「それからきみはなにを持っている」とわたしはたずねた。
「ぼくはヴァイオリンがあるだけだ」
「じゃあ分けてあげよう。ぼくたちは仲間《なかま》なんだから、きみにはシャツ二|枚《まい》と、くつ下二足にハンケチを三枚あげよう。だがなんでも二人のあいだに仲《なか》よく分けるのがいいのだから、きみは
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