一時間ぼくのカバンを持ちたまえ。そのつぎの一時間はぼくが持つから」
マチアは品物をもらうまいとした。けれどわたしはさっそく、自分でもひどくゆかいな、命令《めいれい》のくせを出して、かれに「おだまり」と命令した。
わたしはエチエネットの小ばこと、リーズのばらを入れた小さなはこをも広げた。マチアはそのはこを開けて見たがったが、開けさせなかった。わたしはそのふたをいじることすら許《ゆる》さずに、カバンの中にまたしまいこんでしまった。
「きみはぼくを喜《よろこ》ばせたいと思うなら」とわたしは言った。「けっしてはこにさわってはいけない。……これはたいじなおくり物だから」
「ぼくはけっして開けないとやくそくするよ」とかれはまじめに言った。
わたしはまたひつじの毛の服を着て、ハープをかついだが、そこに一つむずかしい問題があった。それはわたしのズボンであった。芸人《げいにん》が長いズボンをはくものではないように思われた。公衆《こうしゅう》の前へ現《あらわ》れるには、短いズボンをはいて、その上にくつ下をかぶさるようにはいて、レースをつけて、色のついたリボンを結《むす》ぶものである。長いズボンは植木
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