手を上げた。リカルドはふり上げたむちをひかえた。わたしはガロフォリがさすがに情《なさ》けを見せるのだと思ったが、そうではなかった。
「きさまらの泣き声を聞くのはおれにはどのくらいつらいと思う」とかれはねこなで声で犠牲《ぎせい》に向かって言いかけた。「むちがきさまらの皮をさくたんびにさけび声がおれのはらわたをつき破《やぶ》るのだ。ちっとはおれの苦しい心も察《さっ》して、気のどくに思うがいい。だからこれから泣《な》き声《ごえ》を立てるたんびによけいに一つむちをくれることにするからそう思え。これもきさまらが悪いのだ。きさまらがおれに対してちっとでも情《なさ》けや恩《おん》を知っているなら、だまっていろ。さあ、やれ、リカルド」
リカルドがむちをふり上げた。皮ひもは犠牲《ぎせい》の背中《せなか》でくるくる回った。
「おっかあ。おっかあ」とその子どもがさけんだ。
ありがたい。わたしはこのうえこのおそろしい呵責《かしゃく》を見ずにすんだ。なぜといってこのしゅんかんドアがあいて、ヴィタリス親方がはいって来たからである。
人目でかれはなにもかも了解《りょうかい》した。かれははしご段《だん》を上がり
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