家なき子
SANS FAMILLE
(上)
マロ Malot
楠山正雄訳

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)捨《す》て

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)四|枚《まい》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)えにしだ[#「えにしだ」に傍点]
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     生い立ち

 わたしは捨《す》て子《ご》だった。
 でも八つの年まではほかの子どもと同じように、母親があると思っていた。それは、わたしが泣《な》けばきっと一人の女が来て、優《やさ》しくだきしめてくれたからだ。
 その女がねかしつけに来てくれるまで、わたしはけっしてねどこにははいらなかった。冬のあらしがだんごのような雪をふきつけて窓《まど》ガラスを白くするじぶんになると、この女の人は両手の間にわたしの足をおさえて、歌を歌いながら暖《あたた》めてくれた。その歌の節《ふし》も文句《もんく》も、いまに忘《わす》れずにいる。
 わたしが外へ出て雌牛《めうし》の世話をしているうち、急に夕立がやって来ると、この女はわたしを探《さが》しに来て、麻《あさ》の前かけで頭からすっぽ
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