目つきでにらめた。わたしはぞっとした。
「この子どもはなんだ」と、かれは言った。
 マチアはさっそくていねいにヴィタリス親方の口上《こうじょう》をかれに伝《つた》えた。
「ああ、じゃあヴィタリスが来たのか」とかれが言った。「なんの用だろう」
「わたしはぞんじません」とマチアが答えた。
「おれはきさまに言っているのではない。この子どもに話しているのだ」
「親方がいずれもどって来て、用事を自分で申し上げるでしょう」と、わたしは答えた。
「ははあ、このこぞうはことばの値打《ねう》ちを知っている。要《い》らぬことは言わぬ。おまえはイタリア人ではないな」
「ええ、わたしはフランス人です」
 ガロフォリが部屋《へや》にはいって来たしゅんかん、二人の子どもがてんでんにかれの両わきに席《せき》をしめた。そしてかれのことばの終わるのを待っていた。やがて一人がそのフェルト帽《ぼう》をとって、ていねいに寝台《ねだい》の上に置《お》くと、もう一人はいすを持ち出して来た。かれらはこれを同じようなもったいらしさと、行儀《ぎょうぎ》よさをもって、寺小姓《てらこしょう》が和尚《おしょう》さんにかしずくようにしていた。
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