のためにいまの身の上にさしせまっただいじのことは忘《わす》れるくらいであった。
パリの町の中に深くはいればはいるほど、見るものごとにわたしの幼《おさな》い夢想《むそう》とだんだんへだたるようになった。こおりついたみぞからは、なんともいえないくさいいきれが立っていた。雪と氷がいっしょにとけて固《かた》まったいうす黒いどろが、荷車の輪《わ》にはねとばされて、そこらの小店のガラス戸に厚板《あついた》のようにへばりついていた。確《たし》かにパリはボルドーにもおよばなかった。
これまで通って来た町に比《くら》べては、だいぶんりっぱな広い町で、いくらかきれいな店もならんだ通りを長いこと歩いて、親方はついと右へ曲がると、急にみすぼらしい町に出た。高い黒い家のならんだまん中に、例《れい》のいやなにおいのするどぶがあった。たくさんある居酒屋《いざかや》の店先で、おおぜいの男女ががやがや言いながら、お酒を飲んでいた。
町の角には、ルールシーヌ街《まち》と書いた札《ふだ》が打ってあった。
親方は案内《あんない》を知っているらしくせまい通りにこみ合う往来《おうらい》の人の群《む》れを分けて進んだ。わた
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