これからわたしたちの身の上も変《か》わってくるよ。もう四時間もすればパリだから」と言った。
「へえ、ではあすこに遠く見えるのが、パリなんですか」とわたしは問うた。
「うん」
 親方がそう言って指さしをしたとき、ちょうど日がかっとさして、ちらりと金色《こんじき》にかがやく光が目にはいったように思った。
 まったくそのとおりであった。やがて黄金の木を見つけるであろう。
「わたしたちはパリへ行ったら別《わか》れようと思う」とかれはとつぜん言った。
 すぐに空はまた暗《くら》くなった。黄金の木は見えなくなった。わたしは親方に目を向けた。かれもまたわたしを見た。わたしの青ざめた顔色とふるえるくちびるとは、わたしの心の中のあらしをはっきりと現《あらわ》していた。
「おまえ、心配しているとみえるね。悲しいか。わたしにはわかっているよ」
「別《わか》れるんですって」わたしはやっとつぶやいた。
「ああそうだよ。別れなければね」
 こう言ったかれの調子がわたしの目になみだをさそった。もう久《ひさ》しくわたしはこんな優《やさ》しいことばを聞かなかった。
「ああ、あなたはじつにいい人です」とわたしはさけんだ。
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