のが赤子のじぶん飲みつけていたものですから、それでよけい子どものじぶんが思い出されるとみえます」というように言うのであった。この作り話の効《き》き目《め》がいつもあるわけではなかったが、たまにそれが当たるといい一晩《ひとばん》が過《す》ごされた。そうだ、わたしはほんとにひつじの乳《ちち》を好《す》いていた。だからこれがもらえると、そのあくる日はずっと、元気になったように感じた。
パリに近づくにしたがって、いなか道がだんだん美しくなくなるのが、きみょうに思われた。もう雪も白くはないし、かがやいてもいなかった。わたしはどんなにかパリをふしぎな国のように言い聞かされていたことであろう。そしてなにかとっぴょうしもないことが始まると思っていた。それがなんであるか、はっきりとは知らなかった。わたしは黄金の木や、大理石の町や玉でかざったご殿《てん》がそこにもここにも建《た》っていても、ちっともおどろきはしなかったであろう。
われわれのようなびんぼう人がパリへ行って、いったいなにができるのであろう。わたしはしじゅうそれが気になりながら、それを親方に聞く勇気《ゆうき》がなかった。かれはずいぶんしずみ
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