見てさびしく笑《わら》った。かれの顔つきはひじょうに優《やさ》しかった。
 いつもあれほど、せっかちで、かんしゃく持ちで、だれにもいたずらばかりしていたかれが、それはもうおとなしく従順《じゅうじゅん》であった。
 その後毎日、かれはいかにわたしたちをなつかしがっているかを示《しめ》そうと努《つと》めた。それはこれまでたびたびかれのいたずらの犠牲《ぎせい》であったカピに対してすらそうであった。
 肺炎《はいえん》のふつうの経過《けいか》として、かれはまもなくせきをし始めた、この発作《ほっさ》のたびごとに小さなからだがはげくふるえるので、かれはひどくこれを苦しがった。
 わたしの持っていたありったけの五スーで、わたしはかれに麦菓子《むぎがし》を買ってやった。けれどこれはよけいかれを悪くした。
 かれのするどい本能《ほんのう》で、かれはまもなくせきをするたんびにわたしが麦菓子をくれることに気がついた。かれはそれをいいことにして、自分のたいへん好《す》きな薬をもらうために、しじゅうせきをした。それでこの薬はかれをよけい悪くした。
 かれのこのくわだてをわたしが見破《みやぶ》ると、もちろん麦菓子
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