したらしく、急いで地べたにとび下りて、たき火の前のいちばん上等な場所を占領《せんりょう》して、二本の小さなふるえる手を火にかざした。
 親方は用心深い、経験《けいけん》に積《つ》んだ人であるから、その朝わたしが起き出すまえに道中の食料《しょくりょう》を包《つつ》んでおいた。パンが一本とチーズのかけであった。わたしたちはみんな食物を見て満足《まんぞく》した。
 情《なさ》けないことにわたしたちはごくわずかしか分けてもらえなかった。それはいつまでここにいなければならないかわからないので、親方がいくらか晩飯《ばんめし》に残《のこ》しておくほうが確実《かくじつ》だと考えたからであった。
 わたしはわかったが、しかし犬にはわからなかった。それでかれらはろくろく食べもしないうちにパンが背嚢《はいのう》に納《おさ》められるのを見ると、前足を主人のほうに向けて、そのひざがしらを引っかいた。目をじっと背嚢につけて、中の物をぜひ開けさせようといろいろの身ぶりをやった。けれども親方はまるでかまいつけなかった。
 背嚢はとうとう開かれなかった。犬はあきらめてねむる決心をした。カピは灰《はい》の中に鼻をつっこん
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