だまで水がしみ通って、わたしたちはとても笑顔《えがお》をうかべてねむる元気はなかった。
 ディジョンをたってから、コートドールの山道をこえたときなどは、雨にぬれて骨《ほね》までもこおる思いをした。ジョリクールなどは、わたしと同様いつも情《なさ》けない悲しそうな顔をしていた。よけい意地悪くなっていた。
 親方の目的《もくてき》は少しでも早くパリへ行き着くことであった。それは冬のあいだ芝居《しばい》をして回れるのはパリだけであった。わたしたちはもうごくわずかの金しか得られなかったので、汽車に乗ることもできなかった。
 道みちの町や村でも、日和《ひより》のつごうさえよければ、ちょっとした興行《こうぎょう》をやって、いくらかでも収入《しゅうにゅう》をかき集めて、出発するようにした。寒さと雨とで苦しめられながら、でもシャチヨンまではどうにかしてやって来た。
 シャチヨンをたってから、冷《つめ》たい雨の降《ふ》ったあとで、風は北に変《か》わった。
 もういく日かしめっぽい日が続《つづ》いたあとでは、わたしたちも顔にかみつくようにぶつかる北風を、いっそ気持ちよく思っていたが、まもなく空は大きな黒い雲
前へ 次へ
全320ページ中229ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング