した。
わたしはものが言えなかった。ミリガン夫人《ふじん》がわたしの代わりに答えた。つまりわたしがいま親方に言われたとおりにしなければならないことを、アーサに言って聞かせた。
「親方さんにお願いしましたが、あなたをこのままわたしたちにくださることを承知《しょうち》してくださいませんでした」とミリガン夫人《ふじん》は、いかにも悲しそうな声で言った。
「あの人は悪い人だ」とアーサがさけんだ。
「いいえ、あの人は悪い人ではありません」とミリガン夫人は言った。「あの人にはあなたがだいじで手放せないわけがあるのです。それにあの人はあなたをかわいがっていられる……あの人はああいう身分の人のようではない、どうしてりっぱな口のきき方をなさいました。お断《ことわ》りになる理由としてあの人の言われたのは――そう、こうです、――わたしはあの子を愛《あい》している、あの子もわたしを愛している。わたしがあれに授《さず》けている世間の修業《しゅぎょう》は、あれにとって、あなたがたといるよりもずっといい、はるかにいいのだ。あなたはあれに教育を授けてくださるでしょう。それはほんとうだ。なるほどあなたはあれのちえを養
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