たしもルミをここへ止めておくことはたいへんけっこうだと思うけれど」とミリガン夫人《ふじん》は答えた。「わたしたちはずいぶんあの子が好《す》きなのだからね。でもこれには二つやっかいなことがある。第一にはルミがいたがっているかどうか……」
「ああ、それはいますとも、いますとも」とアーサがさけんだ。「ねえルミ、行きたかないねえ、ツールーズへなんか」
「第二には」と、ミリガン夫人《ふじん》がかまわず続《つづ》けた。「この子の親方が手放すだろうか、どうかということですよ」
「ルミが先です。ルミが先です」とアーサは言い張《は》った。
 ヴィタリスはいい親方であった。かれがわたしにものを教えてくれたことに対しては、わたしはひじょうに感謝《かんしゃ》していた。けれどもかれとくらすのと、アーサとこうしてくらすのとではとても比較《ひかく》にはならなかった。同時に親方に持つ尊敬《そんけい》と、ミリガン夫人《ふじん》とその病身の子どもに対して持つ愛着《あいちゃく》とは比較にはならなかった。わたしはこういう外国人を、世話になった親方よりありがたいものに思うのはまちがっていると感じていた。けれどもそれはそのとおり
前へ 次へ
全320ページ中210ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング