。
これはたまらなくおもしろくないことであった。そうなればもう寝台《ねだい》もなければ、クリームもない。お菓子《かし》もなけれは、テーブルを取り巻《ま》いた楽しい夜会もなくなるのだ。
でもそれよりもこれよりもいちばんつらいのは、ミリガン夫人《ふじん》とアーサとに別《わか》れることであった。わたしはこの人たちの友情《ゆうじょう》からはなれなければならないであろう。そのつらさはバルブレンのおっかあに別れたときと同じことであろう。
わたしはある人びとをしたったり、その人びとからかわいがられると、もう一生その人たちといっしょにくらしたいと思う。それがあいにくいつもじきその人たちと別《わか》れなければならないようになる。いわばちょうどその人たちと別れるために、愛《あい》し愛されたりするようなものであった。
このごろの楽しい生活のあいだに、ただ一つこの心痛《しんつう》がわたしの心をくもらせた。
ある日とうとうわたしは思い切って、ミリガン夫人《ふじん》に、ツールーズへ帰るにはどのくらいかかるだろうと聞いた。親方が刑務所《けいむしょ》から出る日に、わたしは刑務所の戸口で待っていようと思ったの
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