はできない。なぜならかの女はわたしのほんとうの母親ではないのだから。
わたしは独《ひと》りぼっちだった。わたしはいつでも独りぼっちでいなければならない……だれの子どもでもないのだ。
わたしはもうこの世の中は、そうなんでも思うようになる所でないことを知るだけに大きくなっていた。それでわたしは母親もないし、家族もないから、友だちでもあればどんなにうれしいだろうと思っていた。だからこの小舟《こぶね》に来て、わたしは幸福であった。ほんとうに幸福であった。けれど、ああ、それは長く続《つづ》けることはできなかった。わたしがまたむかしの生活に返る日はおいおいに近づいていた。
捨《す》て子《ご》
旅の日数《ひかず》のたつのは早かった。親方が刑務所《けいむしょ》から出て来る日がずんずん近づいていた。船がだんだんツールーズから遠くなるに従《したが》って、わたしはこの考えに心を苦しめられていた。
船の旅はこのうえなくおもしろかった。なんの苦労《くろう》もなければ、心配もなかった。これがせっかく水の上を気楽に通って来た道を、今度は足でとぼとぼ歩いて帰らなけれはならないときがじき来るのだ
前へ
次へ
全320ページ中207ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング