のじゃがいもと、ミリガン夫人《ふじん》の料理番《りょうりばん》のこしらえるくだもの入りのうまいお菓子《かし》やゼリーやクリームやまんじゅうと比《くら》べると、なんというそういであろう。
 あのヴィタリス親方のあとからとぼとぼくっついて、沼《ぬま》のような道や、横なぐりの雨や、こげつくような太陽の中を歩き回るのと、この美しい小舟《こぶね》の旅と比べては、なんというそういであろう。
 料理《りょうり》はうまかった。そうだ、まったくすばらしかった。腹《はら》も減《へ》らないし、くたびれもしないし、暑すぎもせず、寒すぎもしなかった。けれどほんとうに正直なことを言えば、わたしがいちばん深く感じたのは、この夫人《ふじん》と子どもの、めずらしい親切と愛情《あいじょう》であった。
 二度もわたしはわたしの愛《あい》していた人たちから引きはなされた。最初《さいしょ》はなつかしいバルブレンのおっかあから、それからヴィタリス親方から、わたしは犬とさるといっしょに空腹《くうふく》で、みじめなまま捨《す》てられた。
 そこへ美しい夫人《ふじん》がわたしと同じ年ごろの子どもを連《つ》れて現《あらわ》れた。わたしを
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