たちは船室の中にはいって、勢《いきお》いよく燃《も》えた火を取り巻《ま》いてすわる。病人の子どもがかぜをひかないためであった。そういうとき、ミリガン夫人《ふじん》はわたしたちに本を読んで聞かせたり、画帳を見せたり、美しいお話をして聞かせたりした。
それから夜、晴れた日には、わたしには一つ役目があった。船が止まったときわたしはハープをおかに持って下りて、少し遠くはなれた木のかげにこしをかける。それから木のえだのしげった中にかくれて、いっしょうけんめいにひいたり、歌を歌ったりするのである。静《しず》かな晩《ばん》など、アーサは、だれがひいているか見えないようにして、遠くの音楽を聞くことを好《この》んだ。そこでわたしがアーサの好《す》きな曲をひくと、かれは「アンコール」(もっと)と声をかける。それでわたしは同じ曲を二度くり返してひくのである。
それはバルブレンのおっかあの炉《ろ》ばたに育ち、ヴィタリス老人《ろうじん》とほこりっぽい街道《かいどう》を流浪《るろう》して歩いたいなか育ちの少年にとっては思いがけない美しい生活であった。
あの気のどくな養母《ようぼ》がこしらえてくれた塩《しお》
前へ
次へ
全320ページ中204ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング