《おぼ》えるのがなかなか困難《こんなん》であるらしく見えた。しじゅう母親は優《やさ》しく責《せ》めていたが、同時になかなか手ごわかった。
「いいえ」とかの女は最後《さいご》に言った。「アーサ、あなたはまるで覚《おぼ》えていません」
「ぼく、できません。お母さま、ぼく、ほんとにできないんです」とかれは泣《な》くように、言った。「ぼく病気なんです」
「あなたの頭は病気ではありません。アーサ、病人だからといって、だんだんばかになるような子をわたしは好《す》きません」
 これはずいぶん残酷《ざんこく》なようにわたしには思われた。けれどかの女はあくまで優《やさ》しい親切な調子で言った。
「なぜ、あなたはわたしにこんな情《なさ》けない思いをさせるでしょう。あなたが習いたがらないのが、どんなにわたしには悲しいかわかるでしょう」
「ぼく、できません、お母さま、ぼくできないんです」こう言ってかれは泣《な》きだした。
 けれどもミリガン夫人《ふじん》は子どものなみだに負かされはしなかった。そのくせかの女はひじょうに感動して、ますます悲しそうになっていた。
「わたしもけさあなたをルミや犬たちと遊ばせてあげた
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