いのだけれど、すっかりお話を覚《おぼ》えるまでは遊ばせることはできません」こう言ってかの女は本をアーサにわたして、一人|置《お》き去りにしたまま向こうへ行った。
わたしの立っていた所までかれの泣《な》き声《ごえ》が聞こえた。
あれほどまでに愛《あい》しているらしい母親がどうしてこのかわいそうな子どもにこれほど厳格《げんかく》になれるのであろう。アーサの覚《おぼ》えられないのは病気のせいなのだ。かの女は優《やさ》しいことば一つかけないではいってしまうのであろうか。
しばらくたってかの女はもどって来た。
「もう一度二人でやってみましょうね」とかの女は優しく言った。
かの女は子どものわきにこしをかけて、本を手に取って、『おおかみと小ひつじ』というお話を読み始めた。アーサはその読み声について文句《もんく》をくり返した。
三度|初《はじ》めからしまいまで読み返して、それから本をアーサに返して、あとは一人で習うように言いつけて、船の中にはいってしまった。
わたしはアーサのくちびるの動くのを見た。
かれはたしかにいっしょうけんめい勉強していた。
けれどもまもなく目を本からはなした。か
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