いて、このきれいな小舟《こぶね》はもう何か月もかれらの家であったかのようによくねいっていた。犬たちはわたしが近づくとはね起きたが、ジョリクールは片目《かため》を開いているくせに動かなかった。かえってラッパのような大いびきをかき始めた。
 わたしはすぐにそのわけをさとった。ジョリクールはたいへんおこりっぽかった。かれは一度|腹《はら》を立てると、長いあいだむくれていた。いまの場合は、ゆうべわたしがかれを船室に連《つ》れて行かなかったのをおもしろく思わなかったので、わざとふてねをして、ふきげんを示《しめ》していたのであった。
 わたしはなぜかれを甲板《かんぱん》の上に置《お》いて行かなければならなかったか、そのわけを説明《せつめい》することができなかった。それで少なくとも外見だけでも、わたしはかれにすまなかったと感じているふうを見せるために、かれをうでにだいて、なでたりさすったりしてやった。
 初《はじ》めはかれもむくれたままでいたが、まもなく、気が変《か》わりやすい性質《せいしつ》だけに、なにかほかのことに考えが移《うつ》って、手まねで、よし、外へ散歩《さんぽ》に連《つ》れて行くなら、か
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