はかれらのために、親方の教えてくれたありったけの曲をひいた。


     最初《さいしょ》の友だち

 アーサの母親はイギリス人であった、名前をミリガン夫人《ふじん》と言った。後家《ごけ》さんで、アーサは一人っ子であった。少なくとも生きているただ一人の子どもだと考えられていた。なぜというに、かの女はふしぎな事情《じじょう》のもとに、長男をなくした。
 その子は生まれて六月《むつき》目に人にさらわれてしまった。それからどうしたかかいもく行くえがわからなかった。もっともその子がかどわかされたころ、ちょうどミリガン夫人《ふじん》はじゅうぶんの探索《たんさく》をすることのできない境遇《きょうぐう》であった。かの女の夫《おっと》は死にかかっていたし、なによりもかの女自身がひどくわずらって、身の回りにどんなことが起こっているか、まるっきりわからずにいた。かの女が意識《いしき》を取り返したときには、夫は死んでいたし、赤子はいなくなっていた。かの女の実の弟に当たるジェイムズ・ミリガン氏《し》はイギリスはもちろん、フランス、ベルギー、ドイツ、イタリアとほうぼうに子どもを探《さが》させたが、結局《けっき
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