であろう。わたしたちはてんでんに腹《はら》をすかしきっていた。肉をぬすんで少しは腹《はら》にこたえのあるはずのゼルビノまでが、がつがつしていた。
「きみはぼくたちに会わなかったら、きょうの昼飯《ひるめし》はどうするつもりだったの」とアーサがたずねた。
「なにを食べるか当てがなかったのです」
「じゃああしたは」
「たぶんあしたはまた運よく、きょうのようなお客さまにどこかで会うだろうと思います」
 アーサはわたしとの話を打ち切って、そのとき母親のほうにふり向いた。しばらくのあいだかれらは外国語で話をしていた。かれはなにかを求《もと》めているらしかったが、それを母親は初《はじ》めのうち承知《しょうち》したがらないように見えた。
 するうち、ふと子どもはくるりと向き返った。かれのからだは動かなかった。
「きみはぼくたちといっしょにいるのはいやですか」とかれはたずねた。
 わたしはすぐ返事はしないで、顔だけ見ていた。わたしはこのだしぬけの質問《しつもん》にめんくらわされていた。
「この子があなたがたにいっしょにいてくださればいいと言っているのですよ」と貴婦人《きふじん》がくり返した。
「この船に
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