》の初《はじ》めの部分だけはかれも殊勝《しゅしょう》らしくたいへん興味《きょうみ》を持って傾聴《けいちょう》していたが、二十とことばを言わないうちに、かれは一本の木の上にとび上がって、わたしたちの頭の上のえだにぶら下がり、それからつぎのえだへととび回っていた。カピが同じやり方でわたしを侮辱《ぶじょく》したならば、わたしの自尊心《じそんしん》はずいぶん傷《きず》つけられたにちがいなかった。けれどもジョリクールがどんなことをしようと、わたしはけっしておどろかなかった。かれはずいぶん頭の空っぽな、軽はずみなやつだった。
 けれどそうはいうものの、少しはふざけたいのもかれとして無理《むり》はなかった。わたしだってやはり同じことをしたかったと思う。わたしもやはりおもしろ半分木登りをしてみたかった。けれどもわたしの現在《げんざい》の位置《いち》の重大なことが、わたしにそんな遊びをさせなかった。
 しばらく休んだあとで、わたしは出発の合図をした。わたしたちはどうせ、どこかただでとまる青天井《あおてんじょう》の下を見つけさえすればいいのだから、なにより、あしたの食べ物を買う銭《ぜに》をいくらかでももう
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