を買うにも足りなかった。巡査がわたしを拘引《こういん》するかもしれない。親方もわたしも二人とも刑務所《けいむしょ》に入れられたら、犬やさるはどうなるだろう。わたしは自分の位置《いち》に責任《せきにん》を感じていた。
 わたしが足早に歩いて行くと、犬たちが顔を上げてながめた。その様子をどう見ちがえようもなかった。かれらは腹《はら》が減《へ》っていた。
 わたしの背嚢《はいのう》に乗っていたジョリクールは、しじゅうわたしの耳を引《ひ》っ張《ぱ》って無理《むり》に自分の顔を見させようとした。わたしが顔を向けると、かれはせっせと腹《はら》をかいて見せた。
 わたしもやはり腹がすいていた。わたしたちは朝飯《あさめし》を食べなかった。わたしの持っている十一スーでは昼食と晩食《ばんしょく》を食べるには足りなかった。そこでわたしたちは一食で両方|兼帯《けんたい》の昼食を食べて、満足《まんぞく》しなければならなかった。
 わたしたちは巡査《じゅんさ》に出っくわさないように、少しでも急いで市中をはなれなければならなかったから、どの道をどう行くなんていうことはかまわなかった。どの道を歩いても同じことであった
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