》しようとした警官《けいかん》を何回も打ったことを承認《しょうにん》するか」と、裁判官は言った。
「何回も打ちはいたしません、閣下《かっか》」と親方は言った。「わたしはただ一度手を上げました。わたくしはいつもの演芸《えんげい》をいたしまする場所にまいりますと、ちょうど警官がわたくしの連《つ》れています子どもを地の上に打ちたおすところを見たのでございます」
「その子はおまえの子ではないだろう」
「はい、しかしわたくしの実子同様にかわいがっております。それで警官《けいかん》がかれを打ちますところを見て、わたしはかっととりのぼせまして、警官が打とうとする手をおさえました」
「おまえは警官を打ったろう」
「警官《けいかん》がわたくしに向かって手をあげましたから、わたくしはもはや警官としてではない、通常の人としてこれに向かってのであります。まったくいかりに乗じた結果《けっか》であります」
「おまえぐらいの年輩《ねんぱい》でいかりに乗ずるということはないはずだ」
「そうです。そういうはずはないのですが、人はおうおう不幸《ふこう》にして過失《かしつ》におちいりやすいのです」
 巡査《じゅんさ》はそれ
前へ 次へ
全320ページ中143ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング