》が残《のこ》っていまの事件《じけん》を論《ろん》じ合っていた。
「あのじいさんがもっともだよ」
「いや、あの男がまちがっている」
「なんだって巡査《じゅんさ》は子どもを打ったのだ。子どもはなにもしやしなかった。ひと言だって口をききはしなかった」
「とんだ災難《さいなん》さ。巡査に反抗《はんこう》したことを証明《しょうめい》すれば、あのじいさんは刑務所《けいむしょ》へやられるだろう、きっと」
 わたしはがっかりして宿屋《やどや》へ帰った。
 わたしはこのころでは毎日だんだんと親方が好《す》きになっていた。わたしたちは朝から晩《ばん》までいっしょにくらしてきた。どうかすると夜から朝までも同じわらのねどこにねむっていた。どんな父親だって、かれがわたしに見せたような行《ゆ》き届《とど》いた注意をその子どもに見せることはできなかった。かれはわたしに字を読むことも、計算することも教えてくれたし、歌を歌うことも教えてくれた。長い流浪《るろう》の旅のあいだに、かれはこのことあのことといろいろにしこんでくれた。たいへん寒い日には、毛布《もうふ》を半分わけてくれたし、暑い日にはいつもわたしの代わりに荷物
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