言って寄《よ》こすから(ことずてをするから)」
かれはそのうえもうなにも言う機会《きかい》がなかった。巡査《じゅんさ》はかれを引きずって行った。
こんなふうにして、親方が余興《よきょう》にしくんだ狂言《きょうげん》はあっけなく結末《けつまつ》がついた。
犬たちは初《はじ》め主人のあとについて行こうとしたけれども、わたしが呼《よ》び返すと、服従《ふくじゅう》に慣《な》らされているので、かれらはわたしのほうへもどって来た。気をつけてみるとかれらは口輪《くちわ》をはめていた。けれどもそれはふつうの金あみや金輪《かなわ》ではなくって、ただ細い絹糸《きぬいと》を二、三本、鼻の回りに結《むす》びつけて、あごの下にふさを垂《た》らしてあった。白いカピは赤い糸を結《むす》んでいた。黒いゼルビノは白い糸を結んでいた。そうしてねずみ色のドルスは水色の糸を結んでいた。気のどくな親方はこんなふうにして、いかめしい権力《けんりょく》の命令《めいれい》を逆《ぎゃく》に喜劇《きげき》の種《たね》に利用《りよう》しようとしていたのである。
群衆《ぐんしゅう》はさっそく散《ち》ってしまった。二、三人ひま人《じん
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