法律《ほうりつ》の命ずるところだ。きさまは知っているはずだ」
このときはちょうど『下剤《げざい》をかけた病人』という芝居《しばい》をやっている最中《さいちゅう》でツールーズでは初《はじ》めての狂言《きょうげん》なので、見物もいっしょうけんめいになっていた。
それで巡査《じゅんさ》の干渉《かんしょう》に対して、見物がこごとを言い始めた。
「じゃまをするない」
「芝居《しばい》をさせろよ、おまわりさん」
親方はそのときまず見物のさわぐのをとどめて、さて毛皮のぼうしをぬぎ、そのかざりの羽根《はね》が地面の砂《すな》と、すれすれになるほど、三度まで大げさなおじぎを巡査《じゅんさ》に向かってした。
「権力《けんりょく》を代表せられる令名《れいめい》高き閣下《かっか》は、わたくしの一座《いちざ》の俳優《はいゆう》どもに、口輪《くちわ》をはめろというご命令《めいれい》でございますか」
とかれはたずねた。
「そうだ。それもさっそくするのだ」
「なに、カピ、ゼルビノ、ドルスに口輪《くちわ》をはめろとおっしゃるか」親方は巡査《じゅんさ》に向かって言うよりも、むしろ見物に対して聞こえよがしにさけんだ
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