たし、権利《けんり》の思想《しそう》をじゅうぶんに持っていたかれは、法律《ほうりつ》にも警察《けいさつ》の規律《きりつ》にも背《そむ》かないかぎりかえって警察から保護《ほご》を受けなければならないはずだと考えた。
そこで巡査《じゅんさ》が立ちのいてくれと言うと、かれはそれを拒絶《きょぜつ》した。
もっとも親方はひじょうにていねいであった。親方があまりはげしくおこらないとき、または他人をすこし愚弄《ぐろう》(ばかにする)しかけるときするくせで、まったくかれはそのイタリア風の慇懃《いんぎん》(ばかていねい)を極端《きょくたん》に用《もち》いていた。ただ聞いていると、かれはなにか高貴《こうき》な有力《ゆうりょく》な人物と応対《おうたい》しているように思われたかもしれなかった。
「権力《けんりょく》を代表せられるところの閣下《かっか》よ」とかれは言って、ぼうしをぬいでていねいに巡査《じゅんさ》におじぎをした。「閣下は果《は》たして、右の権力より発動しまするところのご命令《めいれい》をもって、われわれごときあわれむべき旅芸人《たびげいにん》が、公園においていやしき技芸《ぎげい》を演《えん》じ
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