った。
 つごうのいい場所はけっして少なくはなかったが、とりわけ植物園の近傍《きんぼう》(近所)のきれいな芝生《しばふ》には、大きな樹木《じゅもく》が気持ちのいいかげを作っていて、そこへ広い並木道《なみきみち》がほうぼうから集まっていた。その並木道の一つで第一回の興行《こうぎょう》がすることにした。すると初日《しょにち》からもう見物の山を築《きず》いた。
 ところで不幸《ふこう》なことに、わたしたちが仕度をしているあいだ、巡査《じゅんさ》が一人そばに立っていて、わたしたちの仕事を不快《ふかい》らしい顔で見ていた。その巡査はおそらく犬がきらいであったか、あるいはそんな所にわれわれの近寄《ちかよ》ることをふつごうと考えたのか、ひどくふきげんでわたしたちを追いはらおうとした。
 追いはらわれるままにわたしたちはすなおに出て行けばよかったかもしれなかった。わたしたちは巡査にたてをつくほどの力はないのであったが、しかし親方はそうは思わなかった。
 かれはたかが犬を連《つ》れていなかを興行《こうぎょう》いて回る見世物師《みせものし》の老人《ろうじん》ではあったが、ひじょうに気位《きぐらい》が高かっ
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