のけたたましい笑《わら》い声《こえ》がわたしを正気に返らせた。わたしは片目《かため》ずつ開けてみた。そうして親方の指さすほうをながめた。
 あれほどわたしをおどかした怪物《かいぶつ》はもう動かなくなって、じつと往来《おうらい》に立ち止まっていた。
 その姿《すがた》を見ると、正直の話わたしはまたふるえだした。けれど今度はわたしも親方や犬たちのそばにいるのだ。草やぶのしげった中に独《ひと》りぼっちいるのではなかった……わたしは思い切って目を上げて、じっとその姿を見つめた。
 けものだろうか。
 人だろうか。
 人のようでもあって、胴はあるし、頭も両うでもあった。
 けものらしくもある。けれどもかぶっていた毛むくじゃらな身の皮と、それをのせているらしい二本の長細いすねは、それらしい。
 夜はいよいよ暗かったが、この黒い影法師《かげぼうし》は星明かりにはっきりと見えた。
 わたしはしばらく、それがなんだかまだわからずにいたのであったが、親方はやがてその影法師に向かって話をしかけた。
「まだ村にはよほど遠いでしょうか」と、かれはていねいにたずねた。
 話をしかけるところから見れば人間だったか。
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