いぶつ》はいよいよ近くにせまっていた。もういまにも頭の上にとびかかりそうになっていた。
 運よく野原はそういばらがなかったので、いままでよりは、早くかけだすことができた。
 でもわたしがありったけの速力《そくりょく》で、競争《きょうそう》しても、その怪物《かいぶつ》はずんずん追いぬこうとしていた。もう後ろをふり返る必要《ひつよう》はなかった。それがわたしのすぐ背中《せなか》にせまっていることはわかっていた。
 わたしは息もつけなかった。競争でつかれきっていた。ただはあすう、はあすう言っていた。しかし最後《さいご》の大努力《だいどりょく》をやって、わたしは転《ころ》げこむように親方の足もとにかけこんだ。三びきの犬はあわててはね起きて、大声でほえた。わたしはやっと二つのことばをくり返した。
「化け物が、化け物が」
 犬たちのけたたましいほえ声よりも高く、はちきれそうな大笑《おおわら》いの声を聞いた。それと同時に親方は両手でわたしの肩《かた》をおさえて、無理《むり》に顔を後ろにふり向けた。
「おばかさん」とかれはさけんで、まだ笑いやめなかった。「まあよく見なさい」
 そういうことばよりも、そ
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