風がふくとやわらかなわらびの葉がなよなよと動いて、まるで波の走るように高く低《ひく》く走った。
ずいぶん長いあいだをおいて、たまさか、わたしたちはちょいとした森を通りぬけることがあったが、その森はふつうの森のように、とちゅうの興《きょう》をそえるようなものではなかった。いつもまつ[#「まつ」に傍点]の木の森で、そのえだはこずえまで風に打ち落とされていた。幹《みき》に長く、深い傷《きず》がえぐれていた。その赤い傷口からすきとおったまつやにのなみだが流れ出していた。風が傷口からふきこむと、いかにも悲しそうな音楽を奏《そう》して、この気のどくなまつ[#「まつ」に傍点]がみずから痛《いた》みをうったえる声のように聞かれた。
わたしたちは朝から歩き続《つづ》けていた。親方は夜までにはどこかとまれる村に着くはずだと言っていた。けれど夜になっても、その村らしいものは見えなかったし、人家に近いことを知らせるけむりも上がらなかった。
わたしはくたびれたし、ねむたかった。わたしたちは前途《ぜんと》はただ原っぱを見るだけであった。
親方もやはりくたびれていた。かれは足を止めて道ばたに休もうとした。
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