平線までは、大都市の屋根や鐘楼《しょうろう》が続《つづ》いて散《ち》らばっていた。どれが家だろう。どれがえんとつだろう。中でいちばん高い、いちばん細いのが、五、六木、柱のように空につっ立って、そのてっぺんからまっ黒なけむりをふき出しては、風のなぶるままに、たなびいて、町の真上《まうえ》に黒いガスの雲をわかしていた。川の上には、ちょうど中ほどの河岸《かし》通りに沿《そ》って数知れない船が停泊《ていはく》して、林のようにならんだ帆柱《ほばしら》や、帆づなや、それにいろいろの色の旗《はた》を風にばたばた言わせながらおし合いへし合いしていた。がんがんひびく銅《どう》や鉄の音やつちの音、そういう物音の中に、河岸《かし》通りをからから走って行くたくさんの車の音が交じって聞こえた。
「これがボルドーだ」と親方がわたしに言った。
 わたしのような子どもにとっては――その年までせいぜいクルーズのびんぼう村か、道みち通って来たいくつかのちっぽけな町のほかに見たことのない子どもにとっては、これはおとぎ話の国であった。
 なにを考えるともなく、わたしの足はしぜんと止まった。わたしはじっと立ち止まったまま、前の
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