いで、早《はや》くここへもほうっておくれよ。」
 と言《い》いますと、猿《さる》は、「よし、よし。」と言《い》いながら、わざと青《あお》い柿《かき》をもいでほうり出《だ》しました。かにはあわてて拾《ひろ》って食《た》べてみますと、それはしぶくって口がまがりそうでした。かにが、
「これこれ、こんなしぶいのはだめだよ。もっとあまいのをおくれよ。」
 と言《い》いますと、猿《さる》は「よし、よし。」と言《い》いながら、もっと青《あお》いのをもいで、ほうりました。かにが、
「こんどもやっぱりしぶくってだめだ。ほんとうにあまいのをおくれよ。」
 と言《い》いますと、猿《さる》はうるさそうに、
「よし、そんならこれをやる。」
 と言《い》いながら、いちばん青《あお》い硬《かた》いのをもいで、あおむいて待《ま》っているかにの頭《あたま》をめがけて力《ちから》いっぱい投《な》げつけますと、かには、「あっ。」と言《い》ったなり、ひどく甲羅《こうら》をうたれて、目をまわして、死《し》んでしまいました。猿《さる》は、「ざまをみろ。」と言《い》いながら、こんどこそあまい柿《かき》を一人《ひとり》じめにして、おなかのやぶれるほどたくさん食《た》べて、その上|両手《りょうて》にかかえきれないほど持《も》って、あとをも見《み》ずにどんどん逃《に》げて行《い》ってしまいました。
 猿《さる》が行ってしまったあとへ、そのときちょうど裏《うら》の小川《おがわ》へ友《とも》だちと遊《あそ》びに行っていた子がにが帰《かえ》って来《き》ました。見《み》ると柿《かき》の木の下に親《おや》がにが甲羅《こうら》をくだかれて死《し》んでいます。子がにはびっくりしておいおい泣《な》き出《だ》しました。泣《な》きながら、「いったいだれがこんなひどいことをしたのだろう。」と思《おも》ってよく見《み》ますと、さっきまであれほどみごとになっていた柿《かき》がきれいになくなって、青《あお》い青《あお》いしぶ柿《がき》ばかりが残《のこ》っていました。
「じゃあ、猿《さる》のやつが殺《ころ》して、柿《かき》を取《と》っていったのだな。」
 とかにはくやしがって、またおいおい泣《な》き出《だ》しました。
 するとそこへ栗《くり》がぽんとはねて来《き》て、
「かにさん、かにさん、なぜ泣《な》くの。」
 と聞《き》きました。子がには、猿
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