にはその芽《め》に向《む》かって毎日《まいにち》、
[#ここから4字下げ]
「早《はや》く木になれ、柿《かき》の芽《め》よ。
ならぬと、はさみでちょん切《ぎ》るぞ。」
[#ここで字下げ終わり]
 と言《い》いました。すると柿《かき》の芽《め》はずんずんのびて、大きな木になって、枝《えだ》が出て、葉《は》が茂《しげ》って、やがて花《はな》が咲《さ》きました。
 かにはこんどはその木に向《む》かって毎日《まいにち》、
[#ここから4字下げ]
「早《はや》く実《み》がなれ、柿《かき》の木よ。
ならぬと、はさみでちょん切《ぎ》るぞ。」
[#ここで字下げ終わり]
 と言《い》いました。すると間《ま》もなく柿《かき》の木にはたくさん実《み》がなって、ずんずん赤《あか》くなりました。それを下からかには見上《みあ》げて、
「うまそうだなあ。早《はや》く一つ食《た》べてみたい。」
 といって、手《て》をのばしましたが、背《せい》がひくくってとどきません。こんどは木の上に登《のぼ》ろうとしましたが、横《よこ》ばいですからいくら登《のぼ》っても登《のぼ》っても落《お》ちてしまいます。とうとうかにもあきらめて、それでも毎日《まいにち》、くやしそうに下からながめていました。
 するとある日|猿《さる》が来《き》て、鈴《すず》なりになっている柿《かき》を見上《みあ》げてよだれをたらしました。そしてこんなにりっぱな実《み》がなるなら、おむすびと取《と》りかえっこをするのではなかったと思《おも》いました。それを見《み》てかには、
「猿《さる》さん、ながめていないで、登《のぼ》って取《と》ってくれないか。お礼《れい》には柿《かき》を少《すこ》し上《あ》げるよ。」
 と言《い》いました。猿《さる》は、
「しめた。」
 と言《い》わないばかりの顔《かお》をして、
「よしよし、取《と》って上《あ》げるから待《ま》っておいで。」
 と言《い》いながら、するする木の上に登《のぼ》っていきました。そして枝《えだ》と枝《えだ》との間《あいだ》にゆっくり腰《こし》をかけて、まず一つ、うまそうな赤《あか》い柿《かき》をもいで、わざと、「どうもおいしい柿《かき》だ。」と言《い》い言《い》い、むしゃむしゃ食《た》べはじめました。かにはうらやましそうに下でながめていましたが、
「おい、おい、自分《じぶん》ばかり食《た》べな
前へ 次へ
全6ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング