ぼうし》が、
「ごめん下《くだ》さい。」
 とどなった時《とき》、ちょうどどこかへおでましになるつもりで、玄関《げんかん》までおいでになった宰相殿《さいしょうどの》が、その声《こえ》を聞《き》きつけて、出てごらんになりました。しかしだれも玄関《げんかん》には居《い》ませんでした。ふしぎに思《おも》ってそこらをお見回《みまわ》しになりますと、靴《くつ》ぬぎにそろえてある足駄《あしだ》の陰《かげ》に、豆粒《まめつぶ》のような男《おとこ》が一人《ひとり》、反《そ》り身《み》になってつっ立《た》っていました。宰相殿《さいしょうどの》はびっくりして、
「お前《まえ》か、今《いま》呼《よ》んだのは。」
「はい、わたくしでございます。」
「お前《まえ》は何者《なにもの》だ。」
「難波《なにわ》からまいりました一寸法師《いっすんぼうし》でございます。」
「なるほど一寸法師《いっすんぼうし》に違《ちが》いない。それでわたしの屋敷《やしき》に来《き》たのは何《なん》の用《よう》だ。」
「わたくしは出世《しゅっせ》がしたいと思《おも》って、京都《きょうと》へわざわざ上《のぼ》ってまいりました。どうぞ一生懸命
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