いが立《た》って、人間《にんげん》の死骸《しがい》らしいものが天井《てんじょう》まで高《たか》く積《つ》み重《かさ》ねてありました。そしてくずれてどろどろになった肉《にく》が血《ち》といっしょに流《なが》れ出《だ》していました。
 坊《ぼう》さんは「あっ。」といったなり、しばらく腰《こし》を抜《ぬ》かして目ばかり白黒《しろくろ》させたまま起《お》き上《あ》がることもできませんでした。そのうちふと気《き》がつくと、これこそ話《はなし》にきいた一つ家《や》の鬼《おに》だ、ぐずぐずしているととんでもないことになると思《おも》って、あわててわらじのひもを結《むす》ぶひまもなく逃《に》げ出《だ》そうとしました。けれども今《いま》にもうしろから鬼婆《おにばばあ》に襟首《えりくび》をつかまれそうな気《き》がして、気《き》ばかりわくわくして、腰《こし》がわなわなふるえるので、足《あし》が一向《いっこう》に進《すす》みません。それでもころんだり、起《お》きたり、めくらめっぽうに原《はら》の中を駆《か》け出《だ》して行きますと、ものの五六|町《ちょう》も行かないうちに、暗《くら》やみの中で、
「おうい、お
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