うい。」
と呼《よ》ぶ声《こえ》がしました。
その声《こえ》を聞《き》くと、坊《ぼう》さんは、さてこそ鬼婆《おにばばあ》が追《お》っかけて来《き》たとがたがたふるえながら、耳《みみ》をふさいでどんどん駆《か》け出《だ》して行きました。そして心《こころ》の中で悪鬼《あくき》除《よ》けの呪文《じゅもん》を一生懸命《いっしょうけんめい》唱《とな》えていました。そのうち、
「おうい待《ま》て、おうい待《ま》て。」
と呼《よ》ぶ鬼婆《おにばばあ》の声《こえ》がずんずん近《ちか》くなって、やがておこった声《こえ》で、
「やい、坊主《ぼうず》め、あれほど見《み》るなといった部屋《へや》をなぜ見《み》たのだ。逃《に》げたって逃《に》がしはしないぞ。」
というのが、手《て》にとるように聞《き》こえるので、坊《ぼう》さんはもういよいよ絶体絶命《ぜったいぜつめい》とかくごをきめて、一心《いっしん》にお経《きょう》を唱《とな》えながら、走《はし》れるだけ走《はし》って行きました。
すると、お経《きょう》の功徳《くどく》でしょうか、もうそろそろ夜《よ》が明《あ》けかかってきたので、鬼《おに》もこわくな
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