んから、安心《あんしん》して下《くだ》さい。」
 と坊《ぼう》さんもいいました。
 それでおばあさんも安心《あんしん》したらしく、そのまま出ていきました。

     二

 さておばあさんが出て行ってしまうと、坊《ぼう》さんはただ一人《ひとり》、しばらくはつくねんと炉端《ろばた》に座《すわ》ったままおばあさんの帰《かえ》りを待《ま》っていましたが、じき帰《かえ》ると思《おも》ったおばあさんはなかなか帰《かえ》って来《き》ません。何《なに》しろ西《にし》も東《ひがし》も分《わ》からない原中《はらなか》の一|軒家《けんや》に一人《ひとり》ぼっちとり残《のこ》されたのですから、心細《こころぼそ》さも心細《こころぼそ》いし、だんだん心配《しんぱい》になってきました。何《なん》でも安達《あだち》が原《はら》の黒塚《くろづか》には鬼《おに》が住《す》んでいて人を取《と》って食《く》うそうだなどという、旅《たび》の間《あいだ》にふと小耳《こみみ》にはさんだうわさを急《きゅう》に思《おも》い出《だ》すと、体中《からだじゅう》の毛穴《けあな》がぞっと一|時《じ》に立《た》つように思《おも》いました。そ
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