と糸《いと》を繰《く》っている様子《ようす》でしたが、その時《とき》障子《しょうじ》の破《やぶ》れからやせた顔《かお》を出《だ》して、
「もしもし、お坊《ぼう》さま、そこに何《なに》をしておいでだえ。」
と声《こえ》をかけました。
出《だ》し抜《ぬ》けに呼《よ》びかけられたので、坊《ぼう》さんは思《おも》わずぎょっとしながら、
「ああ、おばあさん。じつはこの原《はら》の中で日が暮《く》れたので、泊《とま》る家《うち》がなくって困《こま》っている者《もの》です。今夜《こんや》一晩《ひとばん》どうかして泊《と》めては頂《いただ》けますまいか。」
といいました。
するとおばあさんは、
「おやおや、それはお困《こま》りだろう。だがごらんのとおり原中《はらなか》の一|軒家《けんや》で、せっかくお泊《と》め申《もう》しても、着《き》てねる布団《ふとん》一|枚《まい》もありませんよ。」
とことわりました。
坊《ぼう》さんはおばあさんがそういう様子《ようす》の親切《しんせつ》そうなのに、やっと安心《あんしん》して、
「いえいえ、雨露《あめつゆ》さえしのげばけっこうです。布団《ふとん》なんぞ
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