り生《お》い茂《しげ》った秋《あき》の野末《のずえ》のけしきで、それらしい煙《けむり》の上《あ》がる家《うち》も見《み》えません。もうどうしようか、いっそ野宿《のじゅく》ときめようか、それにしてもこうおなかがすいてはやりきれない、せめて水《みず》でも飲《の》ましてくれる家《うち》はないかしらと、心細《こころぼそ》く思《おも》いつづけながら、とぼとぼ歩《ある》いて行きますと、ふと向《む》こうにちらりと明《あか》りが一つ見《み》えました。
「やれやれ、有《あ》り難《がた》い、これで助《たす》かった。」と思《おも》って、一生懸命《いっしょうけんめい》明《あか》りを目当《めあ》てにたどって行きますと、なるほど家《うち》があるにはありましたが、これはまたひどい野中《のなか》の一つ家《や》で、軒《のき》はくずれ、柱《はしら》はかたむいて、家《うち》というのも名《な》ばかりのひどいあばら家《や》でしたから、坊《ぼう》さんは二|度《ど》びっくりして、さすがにすぐとは中へ入《はい》りかねていました。
すると中では、かすかな破《やぶ》れ行灯《あんどん》の火《ほ》かげで、一人《ひとり》のおばあさんがしきり
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