いちうなずいて聞《き》きながら、せっせと糸車《いとぐるま》を回《まわ》していました。そのうちだんだん夜《よ》が更《ふ》けるに従《したが》って、たださえあばら家《や》のことですから、外《そと》の冷《つめ》たい風《かぜ》が遠慮《えんりょ》なく方々《ほうぼう》から入《はい》り込《こ》んで、しんしんと夜寒《よさむ》が身《み》にしみます。けれどあいにくなことには、炉《ろ》の方《ほう》の火《ひ》がだんだん心細《こころぼそ》くなって、ありったけのまきはとうに燃《も》やしつくしてしまいました。
おばあさんはふと坊《ぼう》さんの寒《さむ》そうにふるえているのを見《み》つけて、
「おやおや、まきがみんなになりましたか。お客《きゃく》さまがあると知《し》ったらもっとたくさん取《と》っておけばよかったものを、気《き》のつかないことをしました。どれどれ、ちょっと裏《うら》の山へ行ってまきを取《と》って来《き》ますから、お坊《ぼう》さま、しばらく退屈《たいくつ》でもお留守番《るすばん》をお頼《たの》み申《もう》します。」
こういっておばあさんは気軽《きがる》に出て行こうとしました。
すると坊《ぼう》さんはたいそう気《き》の毒《どく》がって、
「いやいや、この夜更《よふ》けにそんな御苦労《ごくろう》をかけてはすみません。何《なん》ならわたしが一走《ひとはし》り行って取《と》って来《き》ましょう。」
といいますと、おばあさんは手をふって、
「どうして、とんでもない。旅《たび》の人に分《わ》かるものではない。まあまあ、何《なん》にもごちそうのない一つ家《や》のことだから、せめてたき火《び》でもごちそうのうちだと思《おも》ってもらいましょう。」
といいいい出かけて行きましたが、何《なん》と思《おも》ったのか戻《もど》って来《き》て、
「その代《か》わりお坊《ぼう》さま、しっかり頼《たの》んでおきますがね、わたしが帰《かえ》ってくるまで、あなたはそこにじっと座《すわ》っていて、どこへも動《うご》かないで下《くだ》さいよ。うっかり動《うご》いて、次《つぎ》の間《ま》をのぞいたりなんぞしてはいけませんよ。」
とくり返《かえ》し、くり返《かえ》し、念《ねん》を押《お》しました。
「どういうわけだか知《し》らないが、むろん用《よう》もないのに、人の家《うち》の中なんぞをかってにのぞいたりなんぞしませ
前へ
次へ
全6ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング