と糸《いと》を繰《く》っている様子《ようす》でしたが、その時《とき》障子《しょうじ》の破《やぶ》れからやせた顔《かお》を出《だ》して、
「もしもし、お坊《ぼう》さま、そこに何《なに》をしておいでだえ。」
と声《こえ》をかけました。
出《だ》し抜《ぬ》けに呼《よ》びかけられたので、坊《ぼう》さんは思《おも》わずぎょっとしながら、
「ああ、おばあさん。じつはこの原《はら》の中で日が暮《く》れたので、泊《とま》る家《うち》がなくって困《こま》っている者《もの》です。今夜《こんや》一晩《ひとばん》どうかして泊《と》めては頂《いただ》けますまいか。」
といいました。
するとおばあさんは、
「おやおや、それはお困《こま》りだろう。だがごらんのとおり原中《はらなか》の一|軒家《けんや》で、せっかくお泊《と》め申《もう》しても、着《き》てねる布団《ふとん》一|枚《まい》もありませんよ。」
とことわりました。
坊《ぼう》さんはおばあさんがそういう様子《ようす》の親切《しんせつ》そうなのに、やっと安心《あんしん》して、
「いえいえ、雨露《あめつゆ》さえしのげばけっこうです。布団《ふとん》なんぞの心配《しんぱい》はいりませんから、どうぞお泊《と》めなすって下《くだ》さい。」
と頼《たの》みました。
おばあさんはにこにこ笑《わら》いながら、
「まあまあ、そういうわけなら、御不自由《ごふじゆう》でも今夜《こんや》は家《うち》に上《あ》がってゆっくり休《やす》んでおいでなさい。」
といって、坊《ぼう》さんを上へ上《あ》げてくれました。
坊《ぼう》さんは度々《たびたび》お礼《れい》をいいながら、わらじをぬいで上へ上《あ》がりました。おばあさんは、囲炉裏《いろり》にまきをくべて、暖《あたた》かくしてくれたり、おかゆを炊《た》いてお夕飯《ゆうはん》を食《た》べさせてくれたり、いろいろ親切《しんせつ》にもてなしてくれました。それで坊《ぼう》さんも、見《み》かけによらないこれはいい家《うち》に泊《とま》り合わせたと、すっかり安心《あんしん》して、くり返《かえ》しくり返《かえ》しおばあさんにお礼《れい》をいっていました。
お夕飯《ゆうはん》がすむと、坊《ぼう》さんは炉端《ろばた》に座《すわ》って、たき火《び》にあたりながら、いろいろ旅《たび》の話《はなし》をしますと、おばあさんはいち
前へ
次へ
全6ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング