く声をかけました。
「わたしたちのなかにいるほうがきらくだよ。このひろびろしたなかで、げんきのいい、わかいときを、十分にたのしむのがいいのだよ。」
けれども、もみの木は、そんなことをきいても、ちっともうれしくありませんでした。
こうして冬が去って、夏もすぎました。もみの木はずんずんそだっていって、いつもいつもいきいきした、みどりの葉をかぶっていました。ですからたれも、このもみの木をみた人で、
「なんてまあきれいな木だろうね。」
と、いわないものはありませんでした。
それで、クリスマスの季節《きせつ》になると、このもみの木は、とうとう、まっさきにきられました。そのとき、おのが、木のしんまできりこんだので、もみの木は、うめきごえを立てて、地の上にたおれました。からだじゅう、ずきずきいたんで、だんだん、気が遠くなりました。かんがえてみると、うれしいどころではありません。じぶんがはじめて芽《め》を出した森の家《いえ》からはなれるのは、しみじみかなしいことでした。こどものときからおなじみの、ちいさな木や花などにも、それからたぶん小鳥たちにも、もうあえないだろうとおもいました。まったく旅《た
前へ
次へ
全26ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング