黷ヌこれはわざと気どっていうので、ほんとうは、お茶のテーブルのうえにのって、りっぱなお客さまたちのまえでうたいたかったのです。
窓のところに、一本、ふるい鵞《が》ペンがのっていました。これはしじゅう女中たちのつかっているものでした。このペンにべつだん、これというとりえはないのですが、ただインキの底にどっぷりつかっているというだけで、それをまた大したじまんの種《たね》にしていました。
「お茶わかしさんがうたわないというなら、かってにさせたらいいでしょう、おもての鳥かごには、小夜鳴鳥《さよなきどり》がいて、よくうたいます。これといって教育はないでしょうが、今晩はいっさいそういうことは問わないことにしましょう。」
すると、湯わかしが、
「どうして、そんなことは大はんたいだ。」と、いいだしました。これは、台所きっての歌うたいで、お茶わかしとは、腹がわりの兄さんでした。「外国鳥の歌をきくなんて、とんでもない。そういうことは愛国的だといえようか、市場がよいのバスケット君にはんだんしておもらい申しましょう。」
ところで、バスケットは、おこった声で、
「ぼくは不愉快でたまらん。」といいました。「
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