え、もうこうしてつかまったのですもの、今《いま》さら逃《に》げるものですか。まあ、ためしに下《お》ろしてごらんなさい。」
 あんまりしつっこく、殊勝《しゅしょう》らしくたのむものですから、おばあさんもうかうか、たぬきの言うことをほんとうにして、縄《なわ》をといて下《お》ろしてやりました。するとたぬきは、
「やれやれ。」
 としばられた手足《てあし》をさすりました。そして、
「どれ、わたしがついてあげましょう。」
 と言《い》いながら、おばあさんのきねを取《と》り上《あ》げて、麦《むぎ》をつくふりをして、いきなりおばあさんの脳天《のうてん》からきねを打《う》ち下《お》ろしますと、「きゃっ。」という間《ま》もなく、おばあさんは目をまわして、倒《たお》れて死《し》んでしまいました。
 たぬきはさっそくおばあさんをお料理《りょうり》して、たぬき汁《じる》の代《か》わりにばばあ汁《じる》をこしらえて、自分《じぶん》はおばあさんに化《ば》けて、すました顔《かお》をして炉《ろ》の前《まえ》に座《すわ》って、おじいさんの帰《かえ》りを待《ま》ちうけていました。
 夕方《ゆうがた》になって、なんにも知《
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