組の少女のテントからは、二十|間《けん》ほど離れた反対側に、海水パンツ一つではあったが、その上、光線除けの眼鏡をかけてはいたが、あの、山鹿十介の皮肉に歪んだ顔を、発見したのだ。
山鹿十介、この男については、鷺太郎は苦い経験を持っていた、というのは山鹿はまだ三十代の、一寸《ちょっと》苦味走《にがみばし》った男ではあったが、なかなかの凄腕をもっていて、ひどく豪奢《ごうしゃ》な生活をし、それに騙されて学校をでたばかりだった鷺太郎が、言葉巧みにすすめられる儘《まま》、買った別荘地がとんだインチキもので、相当あった父の遺産を半分ほども摺《す》ってしまい、そのためにひどく叔父に怒られて、自分の金でありながら、自由に出来ぬよう叔父の管理下におかれてしまったのだ。
くやしいけれど、一枚も二枚も上手の山鹿には、法律的にもどうすることも出来なかった。結局、鷺太郎は高価《たか》い社会学の月謝を払ったようなものだった。
ところで、今、幸い山鹿の方では気づかぬようなので、この間に帰ろうか、それとも、一言|厭味《いやみ》でもいってやろうか――と考えてみたが、とてもあの悪辣《あくらつ》な男にはかなうまい、とい
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